2015年07月10日

〈落書き〉

「なあ」
ここまでずっと押し黙っていたのに突然、ヤマが話し出す。不自然なくらいいつも通りに。
「本当に行くよな、沖縄」
一瞬、「本当に行けるよな」に聞こえ耳を疑いそうになったが、そんなわけない。ヤマがそんな不確かなことを言うわけがない。
「行くよ、当たり前だろ」
おれは応える。
「目標まであと8000円、だっけ?」
「8350円」
ヤマが即答する。ほら、ヤマはいつだって正確でムダに細かい。
「すげえ。もうすぐじゃん。」
おれは金額よりも、ヤマがいつも通りのヤマに戻ったことで、変に勢いがついた声で言った。
それにしても。
8000円なんて、それを「もうすぐ」だなんて、ほんの数ヶ月前までは想像もつかなかった感覚だ。だけど、おれたちにとっては8350円は現実としてあと一週間ほどで、稼げる。それで3人分の沖縄への旅費が手に入る。
おれは重たいカバンを背負い直す。中のAVがゴソゴソ、と鳴る。これを拾ったとき、ヤマに相談して本当に良かった。
「あのさ」
ヤマが何か言いかけた、そのとき、
「おーい」
と、むーちゃんが、彼にしては駆け足で走ってきた。
「竹田先輩、さすがだ。これ。」
そういってコンビニ袋を出す。
「全部で940円」
取り立てた金を汚いコンビニ袋に入れて渡すのが、なんとも竹田先輩らしいが、やはりヤマの言った通り信頼できるようだ。
「延滞料金は?」
ヤマが聞く。
「約束通り先輩に渡した。それは残り」
「よし。あと7410円」
そう言ったときのヤマはやっぱりいつものヤマだった、と思う。
posted by 淺越岳人 at 01:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月11日

落書き〈題未定〉

彼女の回し蹴りがその男の顎先を捉えたとき、なぜか脳裏にブラックサバス。流れてきたのは『アイアンマン』。
7月。それがすべての始まりだった。



posted by 淺越岳人 at 00:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年06月02日

屑と暮らす〈落書き〉

こうしておれの夏休みの予定は埋まった。父の手伝い、その実監視役として、ゴミ山とリサイクルショップの間を往復する毎日は、およそ大学生のそれではないだろうが仕方がない。
しかしそんな風に毎日顔を付き合わせていると、やはり認めざるを得ない。
父は毀れてしまっている。母さんの言った通りだ。
暦の上では残暑らしい。「残っている」という表現がまったくピンと来ない猛暑。軽トラを降り、荷台からこちらもどこで手に入れたのか、郷土資料館に展示してあってもおかしくないような荷車を降ろす。おそらく、これも拾い物だろう。
父の後について荷車を押すが、たちまち嫌気がさして力を抜いてみる。それでも父は何も反応せず黙々と荷車を引く。一人で。
それでも若干の後ろめたさがあって、おれは一応、どういう意味か、荷車の後ろに手だけ添えるだけ添えて山道を登った。
毎日来ているのに、ゴミ山にはどこから湧いているのか今日も、表現はおかしいが真新しいゴミがあった。卓袱台、いやコタツ、点くかはわからないが。無駄にでかい座椅子。ちゃんとVHSの、ビデオデッキ。父はまるで、この山のどこになにがあるかを知っているかのように、次々とそれら小綺麗なゴミを見つけては荷車に放り込む。何を持っていくか取捨選択したりする間はない。常に一定のペースで、彼にとってのゴミとそうでないものを選別する。
おれには目もくれない。時折なにかを呟いているので、「なに?」とか話しかけるが無視される、という最初からおれに全然話していないとわかる。やはり、ヤバい。
一通り気が済んだのか、父は収穫で重たくなった荷車に戻る。しかしその重さで荷車は、動かない。父は力を込めるが、進まない。それでも、一人で、ただただ重荷を引きずろうとし続ける。
見ていられない。実の父の姿にしては、哀れ過ぎる。
しかもその上、ここに息子がいるのに「手伝え」の一言もない。相変わらず視線すら送らない。
「待って」
おれは聞いていないだろう肉親に一応声をかけ、荷車の後ろに両手を突くと、えいや、と力一杯押した。
がたん、と音がして荷車が前進する。
驚いたのか父が振り向く。
父の表情。怯えたような眼。無精髭が汗なのか涎なのか何かで濡れた汚い口。
そのときおれは、ああ、多分父のこの顔は一生忘れないだろうな、と思った。


posted by 淺越岳人 at 23:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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